ボッティチェリの「春(プリマヴェーラ)」について
ボッティチェリはルネサンスの最盛期に活躍した画家の一人です。
ルネサンス期は、「再生」や「復興」と呼ばれ、キリスト教により長い間眠りについていた西洋アートの文化が再び返り咲いた時期でもありました。
そんなルネサンスを代表する画家といえばレオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロなどが有名ですが、ボッティチェリも負けず劣らず有名です。
ボッティチェリといえば神話を題材とすることを得意とした画家です。長らく神話を題材とした絵を描くことがタブーとされていた世の中で、ボッティチェリは神話を主題とした絵画を数多く描き、新たな道を切り開いたのです。
この記事では、そんなボッティチェリの「春」について解説します。
この記事を読んだらわかること
- ボッティチェリの「春(プリマヴェーラ)」ってどんな作品?
- 「春(プリマヴェーラ)」に描かれているのは誰?
- ボッティチェリってどんな人?
- どこに行けば見れるの?
「春(プリマヴェーラ)」ってどんな作品?
この作品のタイトルは「春」もしくは「プリマヴェーラ」と呼ばれることが多いです。「プリマヴェーラ」とは、イタリア語では「春」を意味しており、意味としては同じです。
「春(プリマヴェーラ)」は1482年頃に描かれたとされており、作者はサンドロ・ボッティチェリという人です。
この絵には6人の女神と2人の男の神、そして中央頭上にはキューピットが描かれています。彼らは皆、ギリシャ神話のキャラクターです。当時はまだキリスト教の弾圧が強く、ギリシャ神話を絵画で描くことはタブー視されている世の中でした。そんな中でボッティチェリは先駆者として神話を題材に絵を描いたのです。
それぞれのキャラクターの意味については諸説ありますが、「精妙な神話世界に肥沃や多産の寓意が込められている」という解釈が一般的なようです。
簡単に言ってしまえば、実際の季節というよりも比喩的な意味での「希望の垣間見える春」を表しているということです。
では、この絵に描かれているそれぞれのキャラクターについて次節で解説します。
プリマヴェーラに描かれているのは誰?
ヴィーナス
中央に描かれている女神は、ヴィーナスです。
ヴィーナスとは、ローマ神話における愛と美の女神で、ギリシャ神話でいうところのアフロディーテが同一神とされています。
「春」においては他のキャラクターよりも一座高い位置に描かれており、絵の中で中心的キャラクターとなっています。
三美神
ヴィーナスの左側で思い思いのポーズをしているのが三美神です。
三美神はそれぞれ、愛、貞節、美を司っています。
キューピッド
中央のヴィーナスの頭上にいるのはキューピットです。
キューピッドは愛の神であり、「エロス」と同一神であると考えられています。
「春」においては目隠ししたキューピッドが三美神の一人を狙っています。左端にいるマーキュリーを矢で狙っているという解釈もあるようですが、一般的には三美神の一人を狙っているというのが貞節のようです。
マーキュリー
1番左にいるのがマーキュリーです。
マーキュリーが履いている翼の生えたブーツは彼の特徴でもあります。
マーキュリーは持っている杖で雲を払うような動きをしており、ヴィーナスのいる庭が雲で覆われるのを防いでいます。
ゼフュロス、クローリス、フローラ
口を膨らませている左端のキャラクターはゼフュロスです。
そして、ゼフュロスから逃げるように恐れ振り向いているのがクローリス。クローリスの口からは花が吐き出されており、これは「死」を暗示していると考えられています。
そしてクローリスの左隣、ヴィーナスの右隣にいるのがフローラです。
この三人は、クローリスがゼフュロスの愛欲にとらわれてしまって死を迎え、そしてフローラとして蘇るという一巡が描かれていると考えられています。
つまり、愛と死、そして再生の循環を表しているのです。
「春(プリマヴェーラ)」に隠されたもう一つの意味
中央のヴィーナスは、アーチ型の木に囲われて、赤い衣装を見に付けています。
この赤い衣装は、中世のキリスト教においては聖母マリアの象徴でもあります。また、彼女の胸には純潔を表す真珠のネックレスがあり、お腹は少し膨れていて妊娠しているようにも見え、これらの特徴からも聖母マリアを表していることが感が見えます。
つまり、この絵はギリシャ神話におけるヴィーナスを描くと同時に、キリスト教の聖母マリアを描くという高度な世界観を描いているのです。
作者のボッティチェリはどんな人?
サンドロ・ボッティチェリは1445年頃にフランスで生まれた画家です。
初期ルネサンスにおいて文化的に非常に大きな功績を残した画家の一人です。
幼い頃から体が弱く性格的にも内向的であったとされていますが、絵に関する才能は軍を抜いており、「フィリッポ・リッピの工房」というところで修行をしていましたが比較的早い段階でその実力が認められ、絵の受注を受けるようになります。「春(プリマヴェーラ)」は1482年頃の作品とされているので、彼が37歳頃に描いた作品であると考えられます。他に「ヴィーナスの誕生」もボッティチェリの代表作の一つです。
ボッティチェリは当時キリスト教の影響が非常に強かった中で、ギリシャ神話をキリスト教の宗教画とうまく融合することでバランスを取りながら新境地を切り開いていったのです。
ルネサンスについてのわかりやすい解説については↓の記事でも紹介していますので、見てみてください。
「春(プリマヴェーラ)」はどこで見られるの?
「春(プリマヴェーラ)」はイタリアのフィレンツェにある「ウフィツィ美術館」で見ることができます。
あまり聞いたことのない美術館かもしれないですが、ウフィツィ美術館はイタリアで花開いたルネサンス絵画を数多く見ることができる美術館です。
「春(プリマヴェーラ)」の他にも、ジョットの「オンイサンティの聖母」や、レオナルド・ダ・ヴィンチの「受胎告知」、ティツィアーノの「ウルビーノのヴィーナス」など、ルネサンス期において歴史的転換点として非常に大きな意味を持つ絵がたくさん所蔵されています。
終わりに
今回はボッティチェリの「春(プリマヴェーラ)」について紹介しました。
この時期の作品は様々な寓意が絵に描かれており、この作品も未だに解釈については諸説あり、調べるのが楽しい作品の一つです。
ボッティチェリといえばもう一つ「ヴィーナスの誕生」も外すことのできない有名な作品ですので、別の記事ではそちらについても解説したいと思います。
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