アンリ・ルソーの「夢」についてわかりやすく徹底解説(ヤドヴィガって誰?)

目次

この記事でわかること

今回は、アンリ・ルソーの「夢」について徹底解説します。
この作品は、原田マハさんの著作「楽園のカンヴァス」で非常に重要な役割を果たしており、表紙も飾っていることから知っておられる方もいるのではないでしょうか。筆者は「夢」はアンリ・ルソーの集大成であり最高傑作であると思っています。
この記事では「夢」の徹底紹介と魅力について語っていきたいと思います。

この記事でわかること

  • アンリ・ルソーの「夢」ってどんな絵?
  • 描かれているヤドヴィガって誰?
  • どこで見れるの?

アンリ・ルソーの「夢」

基本情報

  • 作者:アンリ・ルソー(正式名:アンリ・ジュリアン・フェリックス・ルソー/Henri Julien Félix Rousseau
  • 製作年:1910年(ルソーが66歳の頃)
  • 画法:油彩
  • 所在:ニューヨーク近代美術館
  • ジャンル:素朴派

アンリ・ルソー本人については、別記事でも紹介していますので興味あればそちらも御覧ください。

絵の特徴は?

まず、この絵は何の絵でしょうか?何を、どのような意図で描かれているのでしょうか?
ここでは絵を3つのポイントに分けてみていきたいと思います。

  • ジャングル
  • 登場人物
  • ヤドヴィガって誰?

ジャングル

まず絵全体を俯瞰したときに、少なくとも街中ではなく、深いジャングルが描かれていることがわかります。様々な種類の草木が葉っぱ一つ一つ丁寧に生き生きと描かれており、見ているだけでジャングルにいるように没入させてくれます。
このジャングルというテーマは、アンリ・ルソーが得意としたものであり、かつ彼に対する世間の一定の評価を得るきっかけになったテーマでもありました。平面的な側面と立体的な側面が渾然一体となっている木々は見ている人々をジャングルに誘ってくれます。
有名なエピソードとして、実は「アンリ・ルソーは本物のジャングルを見たことがなかった」というものがあります。当時のパリには植物園があり、ルソーはその植物園に足繁く通っていたと言われています。この絵に描かれているジャングルの木々は植物園で見た木々なのです。
何がすごいって、その植物園をお手本としてここまで独創的なジャングルを生み出したことです。ここにルソーの本質が含まれているような気がします。

登場人物

絵を見ると、2人の登場人物が描かれていることがわかります。
一人目は絵の左側にソファに横たわる裸の女性。そしてもうひとりは少し見にくいですが画面中央に笛を吹いた男性が描かれています。なぜジャングルの中で裸の女性はソファに横たわっているのでしょうか?不思議ですよね。
この2人は誰なのでしょうか?

この絵には、実はルソー直筆の詩が添えられています。この詩を読むことで登場人物を理解することができます。

美しい夢のなかのヤドヴィガは、

やさしく眠りにおち、

善意の〈ヘビ〉魔法使いが奏でる、

リード楽器の音が聞える。

月が川〈または花〉、

樹に映るにつれ、

野生のヘビは楽器の

楽しくなる音に耳を貸す。

Wikipedia「夢(アンリ・ルソーの絵)」から引用 引用元:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A2_(%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%AA%E3%83%BB%E3%83%AB%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%81%AE%E7%B5%B5)

ヤドヴィガという女性こそ、ソファに横たわる裸の女性です。そして中央で笛を吹いているのが蛇使いの男性であることがわかります。

つまり、この絵はヤドヴィガという女性が夢の中でジャングルの中に彷徨い込み、そこで蛇使いの奏でる楽器の音色を聞いているシーンであるということです。ソファに横たわっているのは、おそらく眠りに落ちたソファごとジャングルに彷徨い込んだからであると思われます。

アンリ・ルソーは、それまでの作品では直接的にジャングルを描いてきました。つまりジャングルそのものを紛れもない現実として描いてきたのです。しかしこの「夢」においてはジャングルは「夢の中の幻想」です。そうなることで見ている側は一枚フィルターを通してジャングルを見ることになります。ルソーの描くそれまでのジャングルはルソー本人は本気で描いているものの、見ている側にとってはどこか現実的でなく登場する動物も「本当にこんなのいるの?」と疑問に思ってしまうような独特なタッチで描かれていました。この「夢」においても独創的な動物がたくさん描かれていますが、この作品においてはこれが正しいのです。「夢の中」であるのだから現実的である必要は全くなく、ルソーの独特なタッチがすべてプラスに働いていることになります。狙って描いたのか、そうでもなかったのかはわかりませんが、結果的に「夢」という作品がただのジャングルを描いた作品でなくなったことは確かです。

ヤドヴィガって誰?

ところで、このヤドヴィガという女性は誰なのでしょうか?しっかり名前がついているので、実在する人物なのでしょうか?このヤドヴィガという女性については諸説あり未だに結論が出ていませんがヤドヴィガという女性は存在していないというのが通説のようです。
ルソーはヤドヴィガについて「税関の役人だったころに知り合ったポーランド人の女性」と説明しているようですが、その当時にそのような女性がルソーの側にいたという事実はないようです。
説の一つとして最初の妻であるクレマンスという女性をモデルにして創作したキャラクターという可能性もあるようですが、確たる証拠はありません。
ただ、ヤドヴィガは「夢」という作品にとって最重要であることは間違いなく、またそれまでの作品と比べても魅力的なキャラクターに仕上がっており、ルソーにとっても重要な人物であったことは間違いなさそうです。

いつ頃描かれたの?

アンリ・ルソーが「夢」を描いたのは、1910年です。
また1910年はアンリ・ルソーは没した年でもあります。つまり「夢」は正式に発表された作品としては最期の作品であることになります。
ちなみにルソーは1907年に銀行手形詐欺事件に巻き込まれて逮捕されています。当人はこの事件について、手紙の中で詐欺をしているつもりがなかったと主張していますが本当のところはわかっていません。1900年代に入ってようやくルソーの絵が少しずつ評価され始めていたことも事実であり、そんな最中の逮捕劇だったのですから、世間もさることながら本人の落胆も大きかったと思われます。
しかしルソーは絵を描くことを諦めていませんでした。そして最晩年にこの大作を描ききったのです。
この絵は約2×3メートルほどあり、当時貧乏だったルソーにとっては絵の具の捻出もままならなかったはずです。そんな最中に全身全霊をかけて描いたのがこの「夢」だったのですから、我々にとってはもちろんのこと当人にとっても特別な作品であるに違いありません。

素朴派って?

ルソーの絵はよく「素朴派」というカテゴリーに入れられることが多いです。
素朴派とは、技術的な教養がなく、また時代の流行なども取り入れられることもない、独自に描かれた作品です。よく言えば独創性に優れた作品、悪く言ってしまえば素人が描いた作品です。
ルソーは入市税関の傍らで絵を描き始めますが、技術的な教育を受けたことはありませんでした。そのためルソーの絵は遠近法のルールに則っておらず、登場人物の大きさもバラバラ、足を描くのが苦手だったためかどの絵も足元が少し浮いている用に見えます。
「夢」においてもヤドヴィガの体はバランスがおかしくなっており、医学的にも無理のある姿勢になってしまっていることがわかります。
しかしながら、素朴派のいいところは素人っぽさがあるにも関わらず唯一無二の魅力も持っていることだと思います。きっと、絵が上手な人が同じテーマで描いてもこのような魅力的な作品にはなっていないでしょう。ルソーの絵はルソーにしか描くことができず、我々はそんなルソーの絵を愛しているのです。

どこで見れるの?

アンリ・ルソーの「夢」は現在はニューヨーク近代美術館で見ることができます。
ニューヨーク近代美術館(MoMA)は19世紀後半から20世紀にかけてのどちらかというと近代美術がメインとして展示されています。
ここでは他にもフィンセント・ファン・ゴッホの「星月夜」などの有名な作品も展示されています。アメリカの1番大きな美術館といえば「メトロポリタン美術館」ですが、ニューヨーク近代美術館(MoMA)も比較的近いところに位置していますので、もしニューヨークに行くことがあれば一度足を運んでみてはいかがでしょうか?

おわりに

今回はアンリ・ルソーの「夢」について解説しました。
まだまだ描ききれていないことがたくさんある・・・気がするので少しずつ加筆修正していきたいと思います。
それくらいにルソーの絵って不思議な魅力があるんですよね・・・。

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この記事を書いた人

ガジェットとアート好きな一般サラリーマン。生活を彩るおしゃれガジェットの情報、好きなアートについての雑記をメインにしています。

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